ゴロー裁判所内でおどし,執行官もお手あげ」という見出しで,暴力団の暗躍する様子を描く新聞の転載記事が載っている。「彼らは競売当日,競売室付近などにたむろし,セリ落としたい一般人がくると,すばやく『○○万円出したら,お前に落としてやる』と談合を持ちかけ,無理やりに談合金をせしめて山分けする。あるいは,自分が目をつけた物件には,逆におどしてセリからおりさせたりする。」などとその手口の一部が報じられている。 買受けの申出がないために競売期日が何度も延期され,最低売却価格が大幅に下落した後に安価で不動産を競落し,転売して多額の利益を得るというのがお決まりの手口であった。こうした事例については,当時の刑法の教科書も,「現状は本罪(筆者注:競売入札妨害罪)の構成要件にあたる場合が相当に多い」「厳重に取締の必要がある。殊に法秩序を維持すべき裁判機関の行う競売が乱脈に放置されていることは残念である。」などと悲憤慷慨している(青柳文雄「刑法通論Ⅱ各論」(泉文堂,1963)91頁)。それでも,こうした執行妨害が罪に問われることはまずなく,公刊物にも見当たらない。その後,こうした状況を是正するために民事執行法と民事執行規則(ともに昭和平成の時代に入ると,土地高騰の影響で暴力団による執行妨害事例が全国規模で頻発した。このときに旧競売入札妨害罪が効果を発揮し,その成立を認めた事例が続々と下級審裁判例に登場することになった。そして,最後の本設問にあるとおり,更に広範な刑罰規定が用意され,また,暴力団排除が徹底されて,風通しのよい競売風景となって今日に至るのである。252設問19 強制執行を妨害する行為等に対する罰則54年)が登場して期間入札制度が導入され,事態は適正化された。ところが,
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