控訴
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オリエンテーションvi説得的な準備書面を書き、証拠の取捨選択についての合理的な意見を述べても、そうした指摘に十分な検討をすることのないままに、ほとんど聞く耳を持たないような姿勢で、原審判決の結論に沿った和解を強く勧められたという話も耳にします。 「もう高裁は嫌だ、当たり外れが大きすぎる。」などという恨み言を聞くことも多くなりました。もちろん一方的な話ですから、それぞれの立場や言い分の違いに根差すところもあるのでしょう。⑷ 他方、控訴審裁判官の悩みは実に深いものがあります。 我が国の民事控訴審は続審制を採っており、第一審からの審理を引き継ぐため、審理の対象は第一審原告の請求となります。一方、第一審は終局判決をしているため、これに不服な控訴人は、その終局判決に対する不服申立てという形式で控訴をし、控訴の趣旨を掲げます。すなわち、「原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する。」とか、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金何円を支払え。」という具合です。第一審での原告の請求が控訴審終局の時まで変わらない場合には、第一審原告の請求の当否を審理して、結果が第一審と同じであれば控訴を棄却し、異なれば第一審判決を取り消し、あるいは変更するという判決をすれば落着です。 ところが、控訴審において、訴えの変更により請求権の数や内容が増減変更し、当事者の数が増減変更し、あるいは附帯控訴がされるなどして、審判の対象が増減したり変動したりすることは日常茶飯事としてあります。とはいえ、こうした訴えの変更があった場合の審理自体は第一審で行われた場合と特に変わるところはありませんから、審理中にはそれほどの問題意識もなく経過しがちです。しかし、いざ控訴審判決を起案するとなると、それまでの第一審裁判官としての実務経験と知識だけではぱったりと筆が止まってしまいます。民事控訴事件については、既に地方裁判所での勤務中に、簡易裁判所を第一審とする事件の控訴審を経験しているので、そうした経験の延長と高を括っていると事件の落差に愕然とすることになります。何といっても審判の対象が甚だバリエーションに富んでおり、訴額が大きいこともあって当事者の訴訟活動の多様性の豊かな高等裁判所での民

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