本書は、国際通商法の実務を分野横断的に解説した書籍である。企業法務で特に問題になることが多い分野として、貿易取引の実務、輸出入通関と関税、EPA・FTAと特恵関税、貿易救済とアンチダンピング、輸出管理、投資管理、経済制裁の7トピックを取り上げ(第2章~第8章)、関係する法制度の概要と実務対応のポイントを解説した。また、最終章(第9章)では、国際通商法実務のフロンティアとして、人権、環境、デジタル貿易をめぐる最近の動きを紹介している。さらに、これら各論を有機的・体系的に理解するため、第1章において、WTO協定を中心とする国際通商法の基本体系と、昨今注目を集めている経済安全保障との関係を概説した。本書の執筆を思い立った背景として、近年、国際通商法実務が急拡大し、企業法務の必須分野のひとつになりつつあるとの認識がある。かつて、通商法実務といえば、WTO協定、EPA、アンチダンピング、貿易関係の契約対応など、比較的テクニカルな対象を扱う分野という印象もあった。しかし、2010年代後半以降、米中対立の激化、主要国における経済安全保障への関心の高まり、ロシアのウクライナ侵攻などを背景に、輸出管理、投資管理、経済制裁をはじめとする規制分野を中心に各国の法制度がめまぐるしく変化し、多くの企業が日常的に通商法の問題に直面するようになった。さらに、足元では、人権、環境、ESGといった新しい課題と国際通商法が交錯する場面も生じている。そして、これらの問題が、企業の経営判断やサプライチェーン戦略に重大な影響を及ぼす場面も飛躍的に増えている。このように国際通商法実務のニーズが急拡大する一方で、これまで、国際通商法の諸分野における実務対応を網羅的・横断的に解説した書籍は存在していなかった。もちろん、個別分野については、例えばWTO協定を中心とする国際経済法の体系書には定評あるものがいくつも存在するし、輸出管理や投資管理など特定分野では優れた専門書も存在する。しかし、はしがきiは し が き
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