前者については企業法務目線というよりは研究者目線で書かれたものが多く、また、後者については内容が高度であるがゆえに初学者にとってはハードルが高い部分もあった。そこで、本書は、企業の法務部員、経済安全保障担当の役職員、国際通商法案件に携わる弁護士、将来この分野を志す学生、さらには通商法を専門としないが全体像を概観したいという方々(政府関係者や研究者を含む)を主な読者として想定しつつ、国際通商法実務の主要分野をオムニバス形式で紹介したものである。「国際通商法実務の教科書」というタイトルのとおり、初学者に分かりやすい内容でありつつも、企業法務の現場で役立つ実践的な内容とすることを目指し、執筆にあたっては次の3点に留意した。第一に、簡潔・明快な内容とすることである。個別分野の解説は、本書を冒頭から通読しなくても理解できるよう各章完結形式とするとともに、1章あたりの分量も平均30頁程度に抑えている。また、制度や法令の内容を直感的にイメージしやすいよう、図表を多く挿入した。第二に、各分野の制度解説にあたっては、できるかぎり法令の根拠条文を明示した。これは、企業法務の現場では、具体的な法令の根拠に基づく意思決定が重要であるところ、分かりやすさを重視するあまりイメージ頼みの解説になっては実用性・応用性に欠けるためである。また、外為法をはじめ、通商法分野の法令はしばしば極めて難解であるところ、適宜図表も活用しながら法令の構造を分かりやすく示すよう工夫した。第三に、日本法だけでなく、関連する国際ルールや米国を中心とする主要国の法制度も可能な範囲で紹介した。これは、モノ、サービス、資本等の国境をまたぐ取引を扱う通商法の性質上、日本法だけでなく外国の法令が問題になる場面が多いことに加え、日本の法制度を理解する上でも国際ルールの理解や比較法的視点が有用であるとの考慮による。なお、各章の末尾には、個別分野をより深く学びたい読者のための参考文献リストも示している。関心のある読者は適宜参照いただければ幸いである。ii
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