iはしがき 本書は,不動産共有関係に関する実務の一助として発刊するものである。不動産共有関係をめぐる法的問題は特定の土地建物に関して権利を有する者が複数,存在する共同所有形態であり,そもそもが複雑,難解な法律関係である。その上で,この共有関係の中には,民法物権編が規定する通常の共有関係の他に,共同相続の結果,遺産共有状態となる場合が数多く存在する。この遺産共有に関しては相続編の規定と物権編の規定の適用関係が問題となる二元的構造を有している。この点もまた不動産共有関係の理解を困難にしている。さらには昨今の矢継ぎ早の民法改正がある。2018年には相続編の規定が改正され,2021年には民法・不動産登記法の改正がなされている。不動産共有をめぐる法律関係もこれらの改正によりその規律を大きく変えている。 これらの状況に鑑み,本書では不動産共有関係の基本的法律関係をまずは解説した上で,これらの民法改正によって留意すべき新たな論点を網羅的に取り上げることとした。この点は第1編の「不動産共有の実務」に記載される。Q&A方式として,読み易さを意識した説明となっている。その上で,不動産共有関係に関するトラブルが顕在化し,訴訟に発展した場合の手続のポイントを,第2編の「共有関係訴訟の実務」として取り上げている。ケースとして想定した事例内容を前提に,当事者として手続遂行上,具体的に留意すべき点等を,請求の趣旨や原因の具体的内容にまで踏み込んだ解説を試みている。不動産共有関係訴訟には様々なものがあり,相続法分野に関わるものもある。これらの多様な訴訟を類型化した上で解説し,さらには遺産分割調停についても取り上げている。 そして,本書の最大の特徴は不動産共有関係における登記手続の要諦を詳細に解説した点である。共有不動産をめぐる紛争の中でもとりわけ注意を要するのは登記関係紛争である。紛争の解決を使命とする弁護士の中で不動産登記法に精通した者は限られている。一方で不動産登記手続を専門とする司法書士であっても,紛争の解決そのものに関わることは限られている。登記はしがき
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