第2章 戸籍簿 利用を必要とする者の請求に基づき,その事項を開示して,これを公証することをいう。我が国における戸籍の公開の制度は,明治31年戸籍法によって導入されたものであるが,現在までの100余年にわたるその沿革をたどってみると,「全面的に公開を認める」制度から「正当な理由がある場合に限って公開を拒むことができる」制度へ,さらに,「第三者の請求による戸籍の公開については厳格に制限する」制度へと変質してきたということができる。 戸籍には,国民の身分関係に関する事項が記載されているから,みだりに探索・公表されることを許容するならば,国民のプライバシーが侵害されるおそれがある。したがって,戸籍の公開の制度は,社会生活上必要かつ相当な戸籍情報の利用を確保しつつ,他方で,その利用により生じ得る個人のプライバシーの侵害を防止するという2つの要請を満たすものとして制定・運用されることを要する。上に述べた戸籍の公開の制度の変遷は,それぞれの時代における上記2つの要請の調和の有り様を具現するものである。こうした流れの中で,平成19年に改正された現行の制度は,我が国社会の近代化・高度化の進展に伴って個人情報の保護という要請が高まってきたことを,鋭敏に反映するものと評することができる。イ 制度の変遷 上記の制度の変遷の跡を簡単に振り返ると,次のとおりである。 当初の明治31年の戸籍法において採用されたのは,「何人も」戸籍等の閲覧請求や戸籍謄抄本等の交付請求することができるとする「全面公開」の制度であった(同法13・174)。この原則は大正3年の戸籍法に踏襲されたが(同法14),ここでは,市町村長は「正当な理由」がある場合に限り,戸籍の公開の請求を拒むことができるとする若干の制約が付加され,この制度が,戦後の昭和22年に制定された現行戸籍法にも引き継がれた(戸10)。これらの制度の運用において「正当な理由」がある場合とは,終戦直後の先例では,一時にみだりに多人数の謄本を請求する場合,災害等により執務困難な場合その他これに類する特殊な場合を指すものとされていたが(昭和23・9・9回答2484号),国民の権利意識の変化に対応して,戸籍の公開が個人の名誉40
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