本書は,激変する環境にある「医療法人の運営・資金調達・承継」について,法律実務の観点から多角的に考察をした。構成として,第1編は,医療法と医療法人の法務として,①各医療法人の特徴,②医療法人の役員と理事会,③役員に対する責任追及,④医療法人の定款変更と計算について,医療法および関係する税務の様々な制度を検討した。その際に,医療法人の運営および役員責任等の法規制の具体的内容に関する理解を深めるために,多数の裁判例および学説が集積する会社法との比較を行った。第2編は,医療法人の管理と承継として,①レセプト・個別指導・広告規制等の留意点,②医療法人の業務委託(MS法人)・資金調達,③医療法人の承継・社員間契約によるガバナンス,④医療法人の設立,⑤医療法人の組織再編と解散について,医療法,厚生労働省の各種通達・通知,租税法,経営承継円滑化法等の関連法令に基づき各制度を検討した。医療法は,私法と公法の両方の側面を有しているといえよう。医療法人および医療制度・税制の改正・改革は頻繁に実施され,全容を把握しにくく,それは医科および歯科だけでなく,調剤薬局においても妥当する。医療法人の経営は,そのガバナンスおよびサービス内容において多岐にわたる中,医療従事者の働き方改革,COVID-19の影響などにより大きな転機を迎えている。厚生労働省は経過措置型医療法人から持分なし社団医療法人への移行を勧めているが,円滑には進んでいないようである。医療法人数はコンビニの店舗数よりも多く,各医療法人の運営・承継において,当事者の複雑な利害が交錯し,様々な要素を勘案した,より妥当な解決策の提案が求められる。本書は,医療法人・個人医院・調剤薬局の経営者等が短期・迅速に取り組むべき実務上の対処を示すとともに,長期にわたる計画策定を考察すiは じ め に
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