2 承認承認も、弁護士にとって重要なスキルです。承認とは、相手の言葉や存在を認めようとする態度です。相手のこれまでの努力をねぎらったり、決断を支援する態度も、「承認」に含まれます。例えば、相談に訪れた依頼者に「忙しい中、ようこそいらっしゃいました」と伝える、「それは大変だったでしょう」、「ここまでよく頑張られましたね」などと、依頼者の心情や事情に配慮した言葉を伝えることなどが「承認」にあたります。にとって質問は欠かせないコミュニケーションであり、依頼者に尋ねるべきことがたくさんあります。しかし、うなずきも相槌もなく質問を繰り返すと、相手には次第にストレスがかかっていきます。弁護士としては必要なことを尋ねているだけなのに、時には、相手には責められているような感覚が生じるかもしれません。そうしたネガティブな感覚は依頼者との関係性の観点では望ましくないでしょう。うなずきや相槌を適切に入れることで、依頼者との信頼を維持しつつ、相談時間を有効に使えるようになります。なお、依頼者の話や主張には、弁護士から見ると適切さに欠けるものもあるかもしれません。依頼者が、法的に見て妥当ではない考え方や行動をとっている場合もあり得ます。そんな場合にも依頼者を承認してもいいものか、弁護士は悩むかもしれません。重要なのは「承認」することは、依頼者の主張や見解の内容に同意することではないという理解です。ここでいう「承認」とは、いったん、相手の話や主張を否定せずに受け止め、そのような見解や心情に至った背景を理解しようとすることです。誰にでも、他者には一見してわからない事情や独自の見解があるものです。依頼者の見解と法的な視点との間に齟齬があることは、決しておかしなことではありません。また、結果的に、依頼者の主張や意向とは異なる見解を伝えることになっても、その前にしっかりと依頼者を承認しておくことが意味を持ちます。人は、自分の意見を聴いてくれた人、自分を認めてくれる人の意見を受け入れやすいものです。弁護士は、ただ相手の話を聞けばいいわけでは決してありません。依頼者の主張が法的に不適切であれば、それを伝えることも仕事上の役割です。依頼さ4 第1章 第1 コーチングとは何か―弁護士が取り入れる意義―
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