2 依頼者との関係性の質を向上させるコーチングスキルを用いる対話では、弁護士と依頼者は常にフラットな関係にあります。弁護士が「法的にはこうすべき」と自分の意見を正解として押し通したり、依頼者が「専門家の言う通りにしなければ」と委縮してしまうといった関係になることはありません。逆に、弁護士が依頼者の負の感情に巻き込まれ、時に一体化してしまうことや、依頼者の対応に振り回されて、関係性を崩すこともありません。第1章 第2 弁護士がコーチングを取り入れるメリット 7「今、もっとも不安に感じていることはなんですか」「その状況ならば、そう感じられるのもごもっともです」「さぞかし大変だったのではないでしょうか」「そう感じた背景にはどんなことがあるのでしょうか」その上で、何をゴールとするのか、どんな未来を実現したいのか、コーチングスキルを用いて対話を進めることができます。「ご自身にとって、一番大切にしたいのはどの点ですか」「この事件が収束した後、ご自身はどんな生活をなさっていたいですか」弁護士はアドバイザーとしての役割を一旦置いて、いわば依頼者の鏡となり、問いを投げかけながら依頼者の本心を掘り起こし、共に未来のキャンバスを描いていきます。そうして思考が整理されていくと、これまで一つの視点でしか考えられなかったところに新たな気づきが生まれ、依頼者は新しい視点から物事を見ることができるようになります。また、依頼者は弁護士との対話を通じて、自身で行先を選び、ゴールへの道を歩む決断ができるようになります。弁護士と依頼者はともすれば、教える側と教えられる側といった関係になりやすいですが、コーチング的関わり方の中では、両者は常に対等です。弁護士は依頼者が自分の力で選択ができることを信じ、また依頼者は弁護士が解決への道を伴走してくれる強力なパートナーであることを信じて、お互いを尊重する気持ちを育みながら質の高い関係性を築いていきます。ケースによりますが、依頼者だけでなく、関係当事者や、時には相手方との間でも、信頼関係を築くことが事案の解決に資することはあり得ることです。こうした関係性の質の向上は、より柔軟な解決の可能性を広げ、結果の質を上げてくれることにもつながります。
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