10_対話
6/32

ものを取り戻すことができるときもあれば、できないときもありますが、いずれの場合も弁護士がすべきことは、依頼者が人生を前に進めるための支援です。喪失感を抜け出して、この先の人生を一歩踏み出すための機会となるよう、働きかけることです。法律の知識を用いたアドバイスをすることはもちろん必要ですが、それだけでは目の前にいる人の心は置いてきぼりになってしまうこともあるでしょう。たとえ裁判で勝訴しても、依頼者が浮かない顔をしていたら、本当の意味での支援ができていなかったのかもしれません。弁護士が、法的支援に加えて、対人支援の意識を高めて依頼者に働きかけることで、法的素養を携えた頼もしい依頼者の伴走者となることができ、たしかな信頼を得ることができることを、私たちは日々の実践の中で実感しています。弁護士は法律家として研鑽に励むだけではなく、支援者としてコミュニケーション力を磨く努力を積み重ねていきたいものです。本書は、依頼者と向き合い、「依頼者の心の機微や真意をつかむにはどうすればいいのか」「依頼者にどういう言葉かけや働きかけをすればいいのか」「どうすれば依頼者が納得する真の解決へのサポートができるのか」と、よりよい弁護士としての在り方を模索した4人の弁護士が、心理学、認知科学、幸福学、コミュニケーションスキルなど様々な学びを進める中で出合った「コーチング」を、依頼者との関係構築に取り入れたことで解決の糸口を得たところに端を発しています。4人の弁護士は、住んでいる場所も、弁護士になった時期も経緯も異なりますが、コーチングを学び、弁護士という仕事にコーチング的関わり方を取り入れることで、依頼者との関係性が変容する経験を各々がしてきました。また、弁護士業は対人支援であるという考えに強く共感し、「弁護士×コーチングの可能性を広げる会」という勉強会を発足し、依頼者との関係性に関心のある弁護士仲間と学びの輪を広げています。勉強会では、コーチングを活用することで依頼者の意識や現実の捉え方が変化した事例をいくつも話し合い、ケーススタディとして形にしてきました。そうした取り組みを経て、今般、私たちが実践してきたコミュニケーション方法を多くの弁護士の方にお伝えすべく、書籍として出版させていただく運びとなりました。本書では、多くの弁護士が直面する依頼者との難しいシチュエーションにおii はしがき

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る