コメント1 秘密保持義務の趣旨 秘密保持義務は,司法書士が業務上取り扱った事件について知り得た秘密を他に漏らさない,また,利用しない業務上の義務があることを明定したものである。 司法書士は,依頼を受けた事件について,依頼者や関係者らの秘密に深く立ち入ることが多く,秘密保持についての依頼者の信頼なくしては業務を行い得ない。依頼者は,自らの秘密が守られるという信頼があるがゆえに,司法書士に対し様々な秘密を明かして相談し,解決を依頼するのである。 したがって,秘密保持義務及び秘密を利用しない義務は,司法書士と依頼者との関係の最もコアな義務の一つである。2 いかなる場合に秘密保持義務が解除されるか? もっとも,いかなる場合でも秘密の開示が許されないわけではない。そして,秘密保持義務が解除される場合として,司法書士法24条では「正当な事由がある場合」とのみ規定されているところ,行為規範11条2項では,秘密を開示することが許容される「正当な事由」を例示している。 そこで,ここでは行為規範11条2項を手掛かりに具体的事例に当てはめて検討することとする。ただし,秘密の開示が許される場合であっても,秘密主体の利益を考慮して,必要な限度にとどめられなければならないとの点に留意する必要がある。3 本事例では?⑴ 「秘密」とは? 秘密保持義務の対象となる「秘密」とは,司法書士法上は,「一般に知られていない事実で,知られていないことにつき利益があると客観的に認められるものである」1)ところ,司法書士行為規範では,この客観的意味の秘密に加え,本人が特に秘匿しておきたいと考える性質を持つ事項,いわゆる主観的意味での秘密も含むとの立場に立っている。そして,戸籍に170第1章 総論・依頼者応対関係1)『注釈法』274頁
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