司行
41/51

【事例1-1】 秘密保持義務①(戸籍の開示)1712)『解説規程』62頁3)手賀・月報582号8頁4)『解説規程』62頁記載された情報は,ここで言う「秘密」に該当するものである。 その上で,司法書士甲が売買の買主に対して戸籍を開示することが行為規範11条2項の秘密保持義務を解除できる場合に該当するか否かが問題となる。 行為規範11条2項では,秘密保持義務を解除できる場合として,①本人の承諾がある場合(1号),②法令に基づく場合(2号),③司法書士が自己の権利を防御する必要がある場合(3号),④前3号に掲げる場合のほか,正当な事由がある場合(4号)と規定している。そして,その場合においても開示する程度は,必要の限度においてとの制限がある。⑵ 「本人の承諾」があると言えるか? 本事例では,1号の「本人の承諾」がある場合に該当するか否かが問題となる。 「本人」とは秘密の主体である。秘密主体の承諾があれば,秘密を開示しても秘密主体を害することもなく,また,司法書士への信頼も維持される。そして,「承諾」とは明示の承諾のほか,依頼者と連絡がつかない場合であって,依頼者の名誉や信用を守る必要性があるときには,黙示の承諾や推定的承諾でも足りるとされる。2) さらに,「委託された職務の遂行に必要な範囲での秘密開示であれば(推定的)承諾を認めてよいであろう」とされている。3)しかし,黙示の承諾や推定的承諾の判断は慎重になされるべきであり,緊急の必要性のある場合に限られるとされる。4) そうすると,本事例では,相続人各自から相続登記への委任は受けているものの,戸籍一式の開示についての明示の承諾はない。また,買主への戸籍の開示は,「委託された職務の遂行に必要」と言うこともできないので推定的承諾も認められないであろう。 したがって,本事例では秘密主体の承諾はなく,戸籍一式の開示をすることは秘密保持義務から許されないと考えるべきである。

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る