1 甲が乙法人の社員(特定社員)である場合 本事例では,司法書士甲は,行為規範58条1項2号により,Bからの依頼による裁判業務を行うことはできない。そして,簡裁訴訟代理等関係業務に係る事件については,特定社員の半数以上の者が裁判業務を行い得ない場合,司法書士法人は裁判業務を行うことはできない。 したがって,特定社員2名(甲及び丙)のうち甲が業務を行い得ないのであれば,乙司法書士法人は,法人として簡裁訴訟代理等関係業務を行うことはできず,事件を受任することはできない。2 甲が乙法人の使用人司法書士である場合 行為規範91条2号の要件は,あくまで「社員の半数以上」あるいは「特定社員の半数以上」である。したがって,甲が事件を受任しているのではなく(同条1号参照),相手方Aから協議を受け賛助していたにとどまっている本事例では,甲自身は業務を行い得ないが,業務を行い得ない特定社員が半数未満であれば,乙司法書士法人は,法人として簡裁訴訟代理等関係業務を行うことができ,事件を受任することができる。 ただし,その場合は,甲はAとの協議の内容を一切他の社員等に漏らさないようにし,他の社員等も甲から当該事件の情報を一切受け取らず,当該事件のデータの管理を徹底する等,情報の共有や漏洩を防止するための情報遮断措置を講じる必要があるであろう。そのような措置を講じることが困難なのであれば,利益相反だけでなく秘密保持(行為規範89条)の面からも受任には慎重であるべきであろう。4)278第6章 共同事務所・司法書士法人関係4)さらに,本事例では,行為規範93条により,社員等は,原則として事件を受任することができない点も考慮すべきであろう。
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