第3章 法的論点の解説・検討編 なお、本稿は法的な視点での検討を中心とするものと言いつつも、①現在の運用面の実態や、②必要な範囲で児童福祉に関する近時の隣接諸分野の知見にも触れるように心がけている。一時保護に関する法的解釈は、当然、現実の一時保護の運用を踏まえてなされる必要があるし、「児童の福祉」「児童の最善の利益」といった概念を考えるに当たっては児童福祉に関わる隣接諸分野の知見を欠かすことができないと考えられるからである。 以上を踏まえ、本稿は、できるだけ細かな文献引用をし、原情報へのアクセスを意識しつつ、「現状の議論の到達点」を整理することを目指した。なお、いくつかの論点に関しては、第2章や第4章において、各分野の現在の実務をリードする弁護士等から、さらに詳しい議論が展開されているので併せて参照していただきたい。さらに一言… 誤解を恐れずに言えば、一時保護を含む児童福祉及び児童虐待対応の法制度は、近年の改正により、以前にも増して「つぎはぎ」だらけの状態になっており、体系的な説明が困難な「危機的状況」に陥っていると感じられる(第4章第6節「児童虐待ケースに対する裁判所の関与をめぐるあるべき制度について」も参照)。 この背景要因について、筆者は2つの要因があると考えている。1つは、そもそも児童福祉法制における法的な解釈上の論点に関する議論がこれまで整理されてきておらず、あるいはそもそも法的論点の存在が十分に意識されてこなかったことである。もう1つは、法律の解釈や法制度の構築に当たり、児童福祉と法律学のそれぞれの専門性や思考様式との違いが十分に意識されてこなかったことにある(あるいは、法律学の中においても、そもそも児童福祉法制が、行政法と家族法の懸け橋となっているという特殊性も指摘できる。)。 今般、一時保護の司法審査(一時保護状の請求制度)が「中途半端な」形によって導入されたことにより、残念ながらその混迷はさらに深まることとなったように思われる。本稿にはこのような流れに抵抗し、今後の適切な方向性での議論や改正が進むことの願いを込めている。100
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