児保
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第3章 法的論点の解説・検討編れており、児童福祉法2条1項も同趣旨のことを明言する。したがって子どもは、一時保護自体についても、また、一時保護中の生活についても意見を述べることができ、その意見は年齢に応じて相応に考慮されなければならない。だからといって一時保護中、自由に出歩くことを求めても認められないし、また、親との面会交流についても一定の制約を受けることはやむを得ない。ただそのような制約について、児童相談所は子どもにきちんと理由を説明し、できるだけ子どもの納得を得るように努めなければならない。 このように、一時保護の際に児童相談所が親や子どもに対してできる限りの情報提供を行い、その意見も相応に考慮することが行われれば、一時保護をきっかけとして、児童相談所と親と子どもの三者が話し合い、子どもの健全な成長のために協力し合える関係を作ることが期待できるのではないだろうか。一時保護は、確かに、親の権利を制約し、また、子どもについても、その移動の自由を制約するなどの不利益を課する処分である。しかし他方で、親の同意のもとで子どもの発達調査を行ったり、あるいは虐待を受けている子どもを保護するものでもあって、子どもや親にとって利益となる処分でもある。このように一時保護が子どもや親の利益となる面もあるということから、子どもや親の側が一時保護を利用するという発想を持ち、児童相談所も市民へのサービス提供という面を意識するようになれば、一時保護をきっかけに三者の協力関係が築けるのではないだろうか。 とはいえ親の虐待が疑われるようなケースでは、児童相談所と親の利害対立が激しく、双方が協力するというのは難しいように見える。しかし最初は激しく対立するように見えても、児童相談所の調査が進むにつれて、子どもが発達に問題を抱えていて親もこれに悩んでいるとか、親が学校の成績の向上を期待し過ぎて子どもが苦しんでいるとかの課題が明らかになり、子どもの健やかな成長のために何が必要かを考えるということになれば、児童相談所と親や子どもの利害が一致するのではないだろうか。無論、虐待の有無が問題である場合は、話合いで対立を解消することは難しいであろうが、例えば乳幼児の場合、親との面会交流を長期間断絶することは望ましくないから、面会交流の実施について合意することが考えられてよいと思う。 以上のように筆者は、一時保護を児童相談所と親の対立の嵐の場とするのではなく、協力のきっかけとなるような運用が望ましいと考える。そのために、親が一時保護を子どもや親の利益となる制度でもあることを理解し、また、児童相談所がそのような制度として運用することが必要である。特に児童相談所は、一時保護をした後で、できるだけの情報提供と説明を行い、親や子どもの納得を得るような運用を始めることが望まれる。326

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