第2部 逐条解説第1 損害賠償責任の制限(3条)59 3条1項は、特定電気通信役務提供者が特定電気通信による情報について削除等の送信防止措置を講じなかった場合に、当該情報の流通により権利を侵害された者に対して損害賠償責任(不作為責任)を負い得る場合を明確にしています。 具体的には、特定電気通信役務提供者は自らが情報を流通過程に置いた発信者でない限り、送信防止措置を講じることが技術的に可能な場合であって、①他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(1号)、又は②情報の流通を知っており、当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)のいずれかの要件を満たす場合でなければ、権利を侵害された者に対して損害賠償責任を負わないものとされています。 本項は、不法行為等の不作為責任の成立要件のうち、当然に考慮されるべき要素を独立に抽出したものと解されています。この点については、プロバイダ責任制限法制定前の事案ですが、電子掲示板の管理運営者は、当該掲示板に名誉毀損の書込みがなされたことを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除等の措置を講じる条理上の作為義務が発生することを肯定した下級審判決もあります(東京地判平14.6.26判時1810 ─ 78〔動物病院事件・第一審〕)。しかしながら、本項は特定電気通信役務提供者が不作為責任を負わない範囲を明確にしたものにすぎず、本項の要件を満たす場合であっても、直ちに作為義務が発生し、当該義務違反による不作為責任を負うことになるわけではありません。したがって、特定電気通信役務提供者は、本項の要件を満たした場合であっても、別途作為義務の存在等の不法行為を原因とする損害賠償請求等の成立要件を満たさない限り、権利を侵害された者に対して損害賠償責任を負いません。例えば、特定電気通信役務提供者が本項各号の要件を満たしたときから合理的期間内に特定電気通信による情報について送信防止措置を講じた場合には、不法行為の要件を満たさず、権利を侵害された者に対して損害賠償責任を負わないものと解されます(知財高判平24.2.14判時2161─ 86〔チュッパチャプス事件〕⇒60頁【判例6】、東京地判平16.11.24判タ1205 ─265⇒60頁【判例7】)。 なお、本項及び2項は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限を規定したものにすぎず、情報の削除請求権を規定したものではありません。
元のページ ../index.html#47