AI大全
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iはしがきはしがき筆者(柿沼)は、2016 年から AI の開発や利活用を法律面からサポートする業務をしてきました。その中で感じてきたことは「日本企業やアカデミアが AI 開発・利用に関する法的リスクを正確に把握できず慎重になりすぎている」というものです。AI の登場と発展によって、法律的に新しい論点が爆発的に増えてきたこと、日本企業・アカデミアの「生真面目」な性格がその一因だと思われます。そこで、筆者が 10 年近く AI 開発・利用の最前線で経験したり学んできたことを、言語化・整理・共有することで、日本の AI 開発・業務利用を少しでも加速できるのではないかと考えたのが本書執筆の動機です。本書の特徴は以下の3点にまとめられます。1 現場の課題ファースト:本書は、法律の条文や判例の体系的な解説を目的としたものではありません。あくまで、AI の開発や利用の現場で実際に発生している課題を出発点とし、それらを法的にいかに乗り越えるかという「課題解決」の視点から構成しています。したがって、抽象的な議論に終始せず、読者が直面するであろう具体的な状況に即した解説を心がけました。現場で迷いや不安を感じている方々が、本書を通じて実務対応のヒントを得ていただければ幸いです。2 網羅的であるよりも実務的な深掘り:1の「現場の課題ファースト」とも関連していますが、本書はそれなりのボリューム感がありながらも、AI 開発や利活用に問題となる点を「網羅的」に解説するものではありません。あくまで、現場の方が AI 開発や利活用を行う際に、法律的によく問題となる論点とその解決手法に照準を絞っています。その分個々の論点については、最先端の議論を下敷きにしつつ実務的に相当深掘りした記述となっています。3 異なる専門領域をつなぐ「かけはし」:AI 開発や利活用は、技術・ビジネス・法律が複雑に交錯する領域です。本書は研究者、エンジニア、企業経営者、企業のビジネス開発部門・法務部門、さらには法律実務家(弁護士や裁判官など)といった多様な立場の読者が、お互いの視点を理解し、連携しやすくなるよう意識して構成しました。技術用語には法律系の読者でも理解できる説明を、法律用語には技術系の読者でも把握できる丁寧な解説を加え、各分野をつなぐ実務的な“共通言語”となることを目指しています。本書の内容は以下のとおりです。AI を巡る法的課題は多岐にわたりますが、本書では「誰が」「どの段階で」

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