裁少
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i原典に当たるということ─ はしがきに代えて原典に当たるということ1 本書は少年事件に携わる実務家のための「実用書」となるべく編まれたものである。 どのような法分野でも事件は生ものである。法律の条文あるいは教科書に書かれている典型論点の解決法を,そのまま当てはめるだけで解決できる事件は少ない。条文あるいは典型論点の解決法からの「ずれ」をどうやって解決していくかが実務家の課題であり,楽しみでもある。民事,刑事の分野であれば,事件に携わる実務家も多いことから,そのような実務上のノウハウが集団知として集積し,それらをまとめた書籍も刊行されてきている。 ところが,少年事件は,昔から,民事,刑事に比較して数が少なく,実務に携わる者も限られていた。そして,裁判官であれば,いったん少年事件を担当しても,異動により少年事件から離れてしまうことも多く ─ というより,それが通常である ─ ,弁護士であっても,少年事件に熱心な方を除くと継続して少年事件を受任する方は少ないのが実情である。加えて,つい最近まで少年事件の絶対数は減少する一方であった。現行少年法の下での少年事件は,全国の家庭裁判所の一般保護事件の既済件数で見ると,昭和58年に303, 006件を記録したのをピークにおおむね減少を続け,令和4年に33, 001件まで減少した。このような事件数の大幅な減少は,必然的に少年事件に携わる実務家の数の更なる減少をもたらした。そのため,少年実務に関する集団知の形成は不十分なものにとどまり,最近では断絶が生じかねないところまで追い込まれていた。 このような状況に危機を感じた東京近郊の家庭裁判所で少年部の部総括をしていた裁判官は,部総括会を立ち上げて実務上の諸問題を議論するようになった。さらには,同部総括会を基盤に,東京近郊4庁で少年事件を担当する裁判官の意見交換会を催すようになった。同意見交換会は好評を博し現在まで継続している。 その流れの中で,本書の執筆者である裁判官らは,集団知を更に深め,それを文字として残していくために,令和少年実務研究会を立ち上げ,議論を

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