パワハラストーリー15第 1 話 パワハラ─ M 社。 その 2 文字を目にした瞬間、胸の奥がざわつき、心臓が一拍遅れて強く脈打った。クリックしたメールには、通報窓口サービスの報告書が添付されている。件名は簡潔で、しかし強烈だった。 「ハラスメント通報(パワハラ)」 中田は小さく息を吐き、椅子の背もたれに体を預けた。天井を一瞬だけ見上げてから、再び画面に視線を戻す。 パワハラ案件─それは、彼が主導して調査を行わなければならない類の仕事だった。逃げ場のない責任が、その 4 文字の背後に重くのしかかっている。 数年前まで、会社には内部通報窓口しかなかった。当時は利用者も少なく、通報件数は年間 0~2 件。人事部にとっては大きな負担ではなかった。だが、公益通報者保護法の改正や世間的なコンプライアンス意識の高まりを受け、経営陣は外部窓口の設置を決断した。Q2 公益通報者保護法 委託先となったのが、専門業者である M 社だ。当時顧問弁護士を通報窓口にしようという案も出たが、窓口の相談内容次第では、顧問弁護士が通報者と会社との間に挟まれる形となり、アドバイスしにくくなるかもしれないということを懸念して、専門業者に委託することになった。Q4 顧問弁護士による通報窓口通報窓口改革により、通報の手段は格段に広がった。社内外のメール、電話、郵便、さらには匿名での Web フォームまで。イントラネットのトップページには分かりやすい案内が掲示され、社員が気軽にアクセスできるようになった。Q3 通報窓口改革 その改革の結果、これまで静かだった通報窓口は、今や年間で数十件もの通報が寄せられるようになったのである。Q18 調査員不足 経営陣にとっては、それは「会社の透明性と健全性を示す証」と映っていた。潜在的な問題が表に出てきた証拠であり、解決に向けて動けるのは健全化の兆しだと。
元のページ ../index.html#21