ストーリーでわかる 内部通報対応と事実認定
22/46

Q79 パワハラ該当性Q5 内部通報規程 しかし中田にとって、それは単純に業務量の爆発的な増加を意味していた。机の上に積み上がる案件ファイルは、日に日に高さを増し、まるで小さな塔のようにそびえている。時に、その山が自分を押し潰そうとしているのではないかと錯覚するほどだった。 今回の通報は、営業部の安達という社員からだった。M 社がまとめた報告書の概要には、次のように記されている。  ・上司の北野がことあるごとに細かく指示してくる  ・自分なりに効率を重視して動くと「指導に従わない」と責められ、さらに指示が増える  ・指示に少しでも違反すると、嫌味を言われる  ・これはマイクロマネジメントによるパワハラであり、直ちに改善を求める 中田はその文字を何度も目でなぞった。「これが、果たしてパワハラになるのか……」 報告書を一読した直後に浮かんだのは、その疑問だった。もしパワハラに該当しないと判断すれば、「詳細調査の必要なし」と分類できる。その場合は通報者に簡単なヒアリングを行い、「これはハラスメントではない」と説明して終える。かつての中田なら、この時点で心証を固め、効率を優先してそう結論づけていただろう。 だが今は違う。 彼の脳裏には、あの苦い経験が鮮やかに蘇る。早計な判断が一人の社員の人生を大きく変えてしまった、忘れられないあの日の出来事。あの時の後悔と自責の念は、今なお彼の胸に影を落としている。─もう同じ過ちは繰り返さない。Q9 不十分な調査の影響 そう強く心に誓ってから、中田は以前より慎重に、丁寧に案件へ向き合うようになった。どれほど些細に思える事案でも、安易に片付けることはしない。6

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る