ストーリーでわかる 内部通報対応と事実認定
26/46

Q79 パワハラ該当性Q7 守秘義務の徹底─確かに細かい。だが、これがパワハラに当たるレベルか? 中田はモニターを睨みつけながら考え込む。上司が部下の業務を細かく管理するのは、場合によっては正当な指導だ。特に営業の現場では、ちょっとした言葉の選び方や提出物の体裁が取引の成否を分けることもある。だが、それが度を越せば、部下の自主性を奪い、精神的な圧迫につながる。線引きは極めて難しい。 続いて、中田は安達の仕事のスケジュールやプロジェクトのメンバー構成を確認した。カレンダーに並ぶ案件は、他の社員と比べて特別多いわけではない。しかし、目についたのは、その多くに北野が直接関与していることだった。プロジェクトリーダーとして北野が名を連ね、その下で安達が動いている。まるで監視するかのように、安達の動線に北野が常に絡んでいる。 「これは……偶然なのか、それとも意図的なのか」 ある程度調べたものの、核心には届かない。パワハラだと断定する決定的な証拠もなければ、完全に問題なしと切り捨てる勇気も持てない。中田は結局、手を止めざるを得なかった。 翌日、出社した中田は、同じく調査担当を務める法務部の小泉を捕まえ、事情を説明したうえで二人の関係について尋ねてみた。小泉は細身の体をスーツに包み、いつも整えられた髪と冷ややかな目元が印象的で、理屈で押し切るときに浮かべる皮肉めいた笑みが周囲に緊張感を漂わせていた。 「ああ、あの安達ね」と顔をしかめ、すぐに知った様子で話し始めた。 「彼、ちょっと変わり者なんですよ。営業部内でも部署を転々としてるし。だいたい、どの部署でも上司や同僚とぶつかって、関係が悪くなるんです。それで異動になる。今回も同じパターンじゃないですか?」 中田が言葉を探していると、小泉は肩をすくめ、笑みを浮かべた。 「パワハラとか言ってますけど、正直、これくらいじゃパワハラに当たりませんよ」10

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る